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光散乱法によるフミン酸-重金属複合体のゼータ電位および粒径測定

2.フミン物質について

フミン物質は、土壌(農地、森林、山岳)、ピート(泥炭)、石炭、石油、水(海水、河川水、湖沼水、天然水、地下水、排水、河口水)、堆積物(海底、湖沼底)などあらゆるところに存在し、移動しています。それぞれ陸系フミン物質、河川系フミン物質、海洋系フミン物質と呼ばれています。
このようにフミン物質は地球上に大量に存在する有機物質であり、地球環境に対してさまざまな作用があります。しかし、フミン物質は混合物であり、採取場所によって構造が異なり、それぞれ特徴的な性質をもっていると言われています。

1)フミン物質の分類
フミン物質の定義は、国際腐植物質学会(International Humic Substances Society,略称IHSS)において以下のように定められています。「土壌をNaOHなどのアルカリで抽出した分画、あるいは天然水でXAD樹脂に吸着し希アルカリ水溶液で溶出される分画のことをいい、この分画したものをさらに酸により沈殿する分画をフミン酸、沈殿しない分画をフルボ酸と呼んでいます。」
フルボ酸(fulvic acid)は、pHに関係なくすべての溶液によく溶ける物質で、河川や湖沼、海水、地下水など水系に存在するフミン物質の多くを占めており、河川に溶けている有機物の4割を占めています。フミン酸(humic acid)は、pHが2以下の強酸性では水に溶けませんが、強アルカリでは溶解します。フルボ酸より分子量が高く、色が濃く、土壌、堆積物、ピートなどに多く含有されており、有機炭素成分の大部分を占めています。

2)フミン物質の構造 *
主な構成元素は炭素、酸素、水素、窒素で硫黄やリンも含まれています。炭素と酸素の割合が多く、全体の約50%および約30%(wt%)を占めています。フミン物質は混合物なので、平均分子量や分子量分布について研究されています。報告されている平均分子量はかなりの幅がありますが、およそ500~数万と言われています。
その分子構造は採取地域の特有性があり、かつ複雑なため明確になっていませんが、代表的なフミン酸の化学構造を図1に示します。

*(注)XAD樹脂
スチレンまたはアクリルとジビニルベンゼンの共重合体でMR構造(Macro Reticular structure,巨大網目構造)を有する合成吸着剤。イオン交換樹脂に類似した白色の不透明球状粒子。
イオン交換樹脂と異なり官能基を持たないので化学的に極めて安定しており、アルコールやアセトンなどの有機溶媒中でも使用することができる。

図1.フミン酸の概念図
図1.フミン酸の概念図

3)フミン物質の応用分野
(1) 農業への応用
  フミン物質の応用研究においては農業分野が一番進んでいると言われています。
  理論的な面ではよくわかっていないことも多いが、フミン物質の界面活性力が農作物の水や
  養分の吸収を促進します。また、金属との複合体形成作用や不溶性金属の溶解力を持つこと
  から、土壌中の作物必要元素の保持、運搬を促進します。
(2) 水産業への応用
  フミン物質の界面活性作用や金属複合体形成作用は水質改善に利用できます。
(3) 畜産業への応用
  フミン物質やその水溶液を飼料に混合することで家畜の肉質改善、対病性向上、糞尿臭
  抑制に 効果があります。
(4) 健康関連への応用
  フミン物質は医薬品や医薬部外品ではありませんが、フミン物質の水溶液を服用したり、肌に
  塗布したりすることは一般的な使用方法であり、多くの改善例が報告されています。

4)フミン物質の研究機関
フミン物質の世界的な研究機関としては、国際腐植物質学会があります。日本では、世界腐植物質研究会をベースに日本腐植物質学会(国公私立の大学や研究機関・大手企業研究所・民間腐植物質研究家など71団体加盟)で、各種研究が行われています。日本腐植物質学会では年1回、年会が開催されています。

5)フミン酸への金属の吸着
フミン物質は上述したように重金属と複合体を形成することが良く知られ、環境分野で土壌改良や水質改善に利用することが期待されています。今回、フミン物質の中でも土壌、堆積物、ピートなどに多く含まれるフミン酸を取り上げました。
フミン酸への各種重金属の吸着能については、図2に示すようにpHにより異なりますがPb,Cr, Cu>Cd,Zn,Ni>Co,Mnの順に高くなることが報告されています2)

図2.5×10-4mol/Lの重金属のフミン酸への吸着量のpH依存性
図2.5×10-4mol/Lの重金属のフミン酸への吸着量のpH依存性2)

また、図1に示すその構造からカルボキシル基を多く有し、マイナスに帯電しており,各種重金属の陽イオンと容易に結合して複合体を形成することがわかります。このようにして形成される複合体のゼータ電位や粒子径を測定し、吸着能の違いなどについて考察を行いました。

参考文献  1) Stevenson,F.J.:Humic Chemistry: Genesis, Composition,Reactions,
2nd ed., John Wiley Sons Canada (1994)
   2) Kerndorf,H.,Schnizer, M.: Geochimica et Cosmochimica Acta, 44,
1701-1708 (1980)

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